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その夜は、ひどい雨だった。

2010/3/17 01:47
薄い窓から伝わる雨音が、病室に響いていた。
ベッド脇のパイプ椅子にひとり座り、ただただ意識が戻るのを待っていた。

深夜の救急搬送の受け入れ先はなかなか見つからず、
救急車は現場からなかなか動かなかった。

数ヶ月内に開かれる債権者集会で、彼が新会社の代表になることで銀行と話が進んでいた。
数十人の生活が、いま目の前に横たわる背中に寄り掛かっている。

"未来があるというのは、希望があるということ、いや希望を容れることができるということである"

ただただ希望を持って待つよりなかった。
隣室からは、痴呆老人の喚きが聞こえていた。



夜も白みかけたころ、背中が動いた。
顔が動き、目が合った。
まだ痺れの残る唇から、ぽつり、

「……小泉、か」

と聞こえたとき、赦された気がした。

顔を戻しまた眠りについた背中を見届けた。
個室の窓辺に行ってみた。
部屋中に響いていた雨音は、すぐ脇を流れる川の音だったことに気づいた。

雨は、とうに弱まっていた。
時間外玄関で吐いた煙がまぎれていった先は、
もはや冬の空気ではなかった。


※この内容はフィクションです

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